私の中庭(コートハウス)論| 株式会社 横山彰人建築設計事務所 設計コンセプト


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『私の中庭(コートハウス)論』

当事務所のホームページを開くと、すぐに「中庭のある家」(コートハウス)が目に入ります。
お客様から「中庭のある家」だけしか設計しないのですか? とか、
どんなメリットがありますか? という質問がよくあります。 
ここでは、そんな質問にお答えしながら、
あらためて私の中庭(コートハウス)論をご説明したいと思います。

はじめに

 私の設計では、中庭のある家だけを多く設計しているわけではありませんが、 現在の悪化する一方の住宅環境や家族が置かれている現代社会の現状を踏まえ、その中で住宅設計を捉えると、「中庭のある家」(コートハウス)に設計の主眼を置くことは間違いではないことだと考えています。
 単にデザインやインテリア性の高さから「中庭のある家」(コートハウス)を設計のテーマにしてる訳ではなく、中庭のメリットといわれる通風、採光、防犯などは、確かに重要ではありますが、それもひとつの要素と考えています。
 私は物理的なメリットより、中庭のある家(コートハウス)がもたらす精神的、心理的な影響のほうがメリットとして大きいのではないかと思っているのです。中庭のある家(コートハウス)に暮らすことによって、家族、大人と子供、高齢者にどんな恩恵や変化をもたらすのかを、物理的なメリットを含めて考えていこうと思います。

第一回 住宅環境の現状

 都市住宅における敷地は、ますます細分化、狭小化をたどる一方です。狭い敷地において、隣家とのプライバシーを守りつつ、いかに永続的に太陽の光と通風を確保するかは、都市住宅において、大きなテーマになってきています。にもかかわらず、敷地に対して建物をセットバックし、前面道路側に庭やガレージを配置する在来型プランが多く、ある日突然隣に3階建てが建設されたり、悲劇的な事例が後を絶ちません。設計段階の敷地の深い読み取りと、有効利用が求められます。
  中庭のある家(コートハウス)の発想は、敷地いっぱいに塀や建物を建てることにより(私の設計では隣地との距離は30㎝。これは足場をかける最少寸法です。状況によって隣地との間は10㎝としています)、中途半端な空地を無くし、空地は全て庭か室内空間に取り込むことができます。つまり敷地全体を余す所なく住空間として設計し、自然と人、室内と室外の緊密な関係が造り出せるのです。その結果、在来プランと比べて開放的で明るいプランが生まれ、中庭 (コート) の形状も敷地の形状に合わせてL型、U型、ロ型とすることで、自由なゾーニングができます。敷地が狭小になるほど、中庭のある家(コートハウス)は有効になってくるはずです。

第二回 子どもの成長と中庭(コート)1/ 就学前児童期

子どもの成長に必要なこと

 住まいや住まい方は、子どもやその家族の暮らしと密接な関係にあることは言うまでもありません。子どもにとって家中が遊び場であり、思春期に至るまで子どもは遊びを通して成長・発達していきます。遊びを通してテリトリー(なわばり)形成能力を育て、居場所も自分の力で見出していきます。遊びの場がどのように確保されているかが大事なのですが、現実の住まいには部屋に家具や物も多く、遊び場が奪われているのが実態です。また親自身がそのことに気が付いていないことが多いのです。
  こんなデータがあります。5歳児が1日何歩歩いているかの調査では、1987年には12000歩、1997年には8000歩、2000年には4900歩、近年では4000歩を割っています。高層階のマンションに住む子どもはさらに少ないと言われています。遊ぶためのスペースを住まいの中に確保する必要はそこにあります。
 

就学前児童期における中庭(コート)の効用

 中庭のある家(コートハウス)のメリットは明るさ、風通し、防犯などの物理的なこともありますが、むしろ精神的、心理的に及ぼす影響のほうも大きいと第一回で話しましたが、子どもにとって中庭(コート)の存在はどんな効用があるのか考えてみましょう。

①安全が確保された遊び場として、室内では不可能な創造的な遊びまで可能になります

②テリトリー(なわばり)形成力を育てる。用途が決められていない中庭(コート)はいい環境

③居場所としての機能

④子どもなりのストレスが癒される場として、緑や花がある中庭(コート)は有効。(大人も同じ)

⑤中庭(コート)の草や花は子どもにとっても身近になり、情趣的な教育にも良い。

 居場所について説明を加えると、居場所には2種類あります。ひとつは子どもにとって心地よい場所。もうひとつは、子ども自身で自分を発揮できる場所です。特に0歳から就学前児童期の子どもには、心地よい場所を親としてどう用意してあげられるか重要です。中庭のある家(コートハウス)はそんな選択の場を広げてあげることでもあります。

第三回 子どもの成長と中庭(コート)2/学童期・思春期

子供の成長に必要なこと

 就学前や小学校低学年の子どもにとって、家は遊びの場として機能が求められますが、小学4年生頃から、家族という認識や、プライバシーの観念、そして自分だけの部屋を求める欲求がめばえます。同時に、この時期は協調性、創造性、さらにコミュニケーション能力を育む大切な時期であり、失敗すると家庭内暴力や不登校に発展するといわれています。
 以前の社会は、子どもの成長過程におけるしつけや、上記の項目は、家庭、学校、地域社会がその役目を担っていましたが、学校と地域社会はその機能が崩壊し、家庭だけが責任を負うことになりました。特にこの時期の子ども部屋の与え方、その時期、どんな部屋といったことが大事になってきますが、親としてあまり考えず、子どもには子ども部屋と機械的に個室を与えている場合が多いのが現実です。
 子どもの成長過程で「家族空間」(家族の人間関係を含んだ生活空間)という意識を持つことが大切です。
 

学童期・思春期における中庭(コート)の効用

 学童期・思春期の子供にとって「中庭(コート)のある家」はどんなかかわりが生まれるでしょうか、考えてみましょう。

①「誰も見ていない場所」、「誰も見ていない時間」をできるだけ与えない部屋は、いい子ども部屋の一要素だと思います。「中庭(コート)のある家」は中庭を囲むようにリビングや子ども部屋が並びますので、家族がどこにいても子どもの気配がわかり声も届きます。

②ストレス軽減や心の居場所として有効
 子どもは学校や家庭などでさまざまなストレスを受けます。また近年、ともだち関係を含めた人間関係が築けずにストレスがたまる子どもが多いのですが、子ども部屋では勉強部屋と位置づけられているので、ストレスの軽減は難しいでしょう。無目的な場である中庭(コート)は、自然が包み込んでくれます。ストレスが癒され、居場所づくりにもいいはずです。

③中庭(コート)における「家族の年中行事」
 隣家からのプライバシーが守られた中庭は、秋のお月見、クリスマスツリーの電飾やこれまで家の中で出来なかった行事で、新たな親子のコミュニケーションが生まれます。

④子供の成長過程を見ながら、中庭いっぱいに遊び回れるウッドデッキにしたり、砂場、樹木、家庭菜園などにつくり変え、子どもとともに楽しむことができます。
 
「中庭のある家」(コートハウス)は、子どもの成長過程において「生きる力」を育む住まいと言えるかもしれません。

第四回 夫婦と中庭(コート)1

住まいにおける夫婦にとっての中庭(コート)

 これまで子どもにとって「中庭(コート)のある家」が成長過程でどう影響するのかその関係性を述べてきましたが、中庭(コート)はむしろ夫婦や高齢者つまり、大人にとって必要なのではないかと思います。
 

住まいの今日的状況

 これまで家づくりは、その動機も「子どものために建てる」が最も多いように、以前から子ども中心の家づくりをしてきました。たとえば、子ども部屋の位置は、環境の良い場所を占め、それに引き替え、夫婦の寝室は狭く寝るスペースしかないのがほとんどです。高齢化社会になって、男女とも平均寿命も大きく延びました。家族のライフスタイルを考えたとき、子どもの部屋が必要なのは仮に小学4年生頃から大学を卒業し就職までと考えると14、5年ほどのことでその後、夫婦で過ごす20年~30年の時間のほうが圧倒的に長いのです。
 家族は空間と共にあって、空間の占め方で家族の人間関係も大きく変わってきます。子ども中心の住まいから、夫婦を中心に過ごしていく住まいを視野に入れながら家づくりを考えるべきだと思います。なぜなら子供が巣立って行っても、その後の子ども部屋の有効利用は考えられていません。子ども部屋は空いたままか、物置か、妻が子ども部屋に移って、夫婦別寝室になるかいずれかで、家全体を見直すリフォーム等も考えられていないのが現状です。住宅産業は便利、快適な商品には熱心ですが、住まいのソフトの部分は、何の提案もありません。
  家庭内別居や離婚はどの年代にも多く、原因も小さな不満の積み重ねが元になっていると思えますが、その不満には往々にして住まいがかかわっているケースが多いのです。その不満の原因を吟味してみるとお互いの居場所がどれだけ確保されているかにたどり着きます。
 子育てに専念する20代~30代、子どもの学校が終わり家を出る40代~50代、その後夫婦で過ごす生涯の時間。それぞれのシチュレーションの中で、家族から個人として住まいに求めるものも変わります。
 一人で過ごす時間と空間は、この時代ほど必要と思いながら、私の設計する家でも夫の書斎が求められても妻の個室はありません。データでは、8割以上の主婦が個室を求めています。子育てに疲れたとき、誰にも邪魔されず一人で読書をしたいとき、ストレスを解消したい時、住まいの中で見つけられますか。そんな時、住まいの同室空間の中に自然の中庭(コート)があれば心は癒されるはずです。

第五回 夫婦と中庭(コート) 2

Sさんにとっての中庭(コート)

 私の設計した「中庭(コート)のある家」に住んでおられるSさんのお話です。Sさんの住まいは玄関に入ると長いベンチがあって、目の前のインドアの中庭には、3m以上の竹が植えられています。職業はIT関係でとても忙しく、帰りはいつも11時過ぎで、会社では常にストレスにさらされている状態だそうです。
 Sさんは帰ってくるとしばらくの間、ベンチに座って竹林の先の夜空を見上げるのだそうです。ある夜は、月の光やその光が竹の林に降り注いでいるのをじっと見上げていると一日の疲れや、ストレスも癒され、優しい気持ちになるということです。
 Sさんにとって中庭(コート)は、気持ちを切り替え、明日の再生産の場として、とても大切な居場所であり、なくてはならない場といわれています。
 

中庭(コート)空間は、大人が求める居場所

 夫が住まいに求めているものと、妻が住まいに求めているものは当然異なりますが、共通しているのはともに「家庭の中に自分のスペースがほしい」、「自分一人になれる場所がほしい」ではないでしょうか。言い換えれば、自分自身の居場所の確立を望んでいるともいえますが、住まいの中にどこにも見いだせない現状がストレスを生んでいます。
 子どもが求める居場所は、成長過程で親が居場所を見つけてあげなければなりませんが、大人は家づくりの段階で、どんな暮らしを展開しようとするのか、どんな家族関係を築こうとするのかを考え、また夫婦がそれぞれの居場所を含めた検討をしておくべきなのです。夫婦を結ぶ絆それが<住まい>なのだと思いますが、現実はあまりにも安易に住まいを考え、家づくりをしているような気がします。
 
 中庭(コートハウス)の歴史は当初自然の猛威から身を守るため、防壁や部屋で囲んで真中に中庭(コート)をとった形態が発祥でしたが、現代は都市住宅の置かれている環境悪化や、個人の自立、そして囲まれて自分一人になれる機会に恵まれるためストレスから逃れる場として中庭(コート)は有効に働くのではないかと考えます。